当初予定した肝特異的STAT1KOマウス作成がやや遅れたため、まず、ヒト肝癌組織におけるSTAT1の役割に関して検討を行った。胆癌患者29症例における癌部、非癌部のSTAT1活性化をWestern blotにて検討した。75%以上の症例において、非癌部に比し癌部においてSTAT1の活性化の低下を認めた。そこでこれらの29症例をSTAT1活性化著明低下群(以下S1低下群)とコントロール群に分け、腫瘍の形態、臨床像を検討したところ、S1低下群において2年以内の再発の有意な増加を認めた。また肝癌組織の詳細な検討により、S1低下群において肝癌の微小な門脈浸潤症例が有意に増加していた。この原因を検索するため癌部非癌部における転移浸潤関連分子(FGF、MMP、TIMP、VEGF等)の発現を網羅的に解析したところ、VEGFがmRNA、蛋白レベルのいずれにおいても、S1低下群においてコントロール群に比し有意に発現の上昇が認められた。これらのことから、STAT1の活性化とVEGF発現には負の相関関係の存在の可能性が示唆されたため、肝癌細胞株を使用したin vitroの系において検討を加えた。まず、IFNγ刺激によるSTAT1の活性化によりVEGFの発現の低下が認められ、これはIFNγ濃度依存性であった。更に塩化コバルトを使用した低酸素モデルにおいても、誘導されたVEGFはIFNγ刺激により発現抑制が認められ、STAT1のsiRNAを導入することによりこの発現抑制が解除された。以上よりSTAT1活性化の低下に伴い、微小門脈浸潤の増加、肝癌再発の増加が認められ、この機序としてVEGFの発現上昇が関与している可能性が示唆された。更にIFNγ-STAT1シグナル活性化がVEGFの発現レベルを抑制していることが示された。IFN投与によるSTAT1活性化は脈管浸潤の予防を介した再発抑制の一つのツールとして有効である可能性が示唆された。
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