自然肝発癌モデルマウスはエストロゲンを欠失することから肥満をきたし、脂肪肝を自然発症する。また、TNF-α関連遺伝子改変に伴い肝臓からのVLDLの分泌が抑制されている。このため、高度の脂肪肝が惹起され、慢性肝炎を経て肝発癌をきたす。この自然肝発癌モデルマウスにストレプトゾトキシンを単回腹腔内投与し、膵β細胞障害を惹起して糖尿病を誘発した後、経時的に肝臓を検索し肝発癌率軽減の有無を検討したところ、発癌率は28%軽減された。その機序についてはマイクロアレイ解析とNorthern blotで以下の事実が明らかとなった。ストレプトゾトキシンの投与を受けたマウスではインスリンの分泌が低下するために、肝臓で糖新生と脂肪酸の合成が高まる。他方、高血糖状態が遷延するために、尿糖として糖は失われ、高度肥満を維持することができなかった。また、ストレプトゾトキシンの投与を受けたマウスではインスリンの分泌が低下するために、肥満に伴って生じていた過剰のインスリンによるMTTPの発現抑制が解除された。MTTPはapolipoprotein Bにトリグリセライドを添加しVLDLとして放出する機能を有することから、その抑制の解除は肝臓からのVLDLの放出をもたらし、脂肪酸の合成は亢進しているにもかかわらず、肝への脂肪の沈着は著明に軽減された。外因性にエストロゲンを投与しても、MTTPの発現抑制が解除され肝への脂肪の沈着は著明に軽減され、その作用はER-αを介することが示された。しかし、エストロゲンによるIL-6の発現抑制効果を証明することはできなかったことから、この自然発癌モデルでは肝発癌におけるIL-6の関与は強くないことも示唆された。
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