脂肪肝の発症・増悪にGLP-1/GLP-1Rシグナル系が関与しているか検討するために、ヒト脂肪肝におけるGLP-1Rの発現をRT-PCRで定量し正常例と比較した。標本群は組織学的に脂肪肝と診断された22例と正常肝10例を選択した。正常肝のGLP-1Rの発現量を1とすると、脂肪肝での発現量(相対値)は4.43±6.78と増大していた。脂肪肝症例をGLP-1Rの発現量の多寡で2群に分類した。血清生化学検査でAST(U/L)、γGTP(U/L)、総コレステロール(mg/dl)、中性脂肪(mg/dl)、空腹時血糖(mg/dl)を評価すると、GLP-1R低値群(0.24±0.24)では87.1、109、214、168、123、GLP-1R高値群(9.21±7.47)では32.6、43.9、168、115、108と、GLP-1R高値群の肝障害は軽度である傾向があった。HOMA-IRで脂肪肝群を分類したところ、GLP-1R発現量はHOMA-IR 2.5未満群(n=10)で0.99±1.22に対して、2.5以上の群(n=12)では6.87±8.59と増大していた。次に、ヒト肝癌細胞株HepG2細胞におけるGLP-1Rの発現の検討を行った。コントロールでの発現量を1とした場合、オレイン酸(1mM)添加時には1.02±0.53、パルミチン酸添加時には3.22±1.14と飽和脂肪酸添加によりGLP-1Rの発現は増大した。同様に高グルコース条件(300mg/dl)ではGLP-1R発現量は1.49±0.45と増大し、高インスリン条件(20ng/ml)では0.76±0.14と低下した。ヒト脂肪肝におけるGLP-1Rの発現量、及び培養肝細胞の結果から、肝GLP-1シグナル系は脂肪肝の発症・増悪に密接に関与すること、またグルコースやインスリン抵抗性に影響されることが示唆された。
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