研究概要 |
Dipeptidyl Peptidase-4(DPP-4)は、GLP-1やGIPなどのインクレチン物質を分解・失活させる。新しい糖尿病治療薬DPP-4阻害剤は、GLP-1の作用を増強することで血糖をコントロールするが、脂肪肝に対する効果は不明である。脂肪肝の発症過程におけるDPP-4の生理的役割を解明するために、脂肪肝症例におけるDPP-4のmRNA発現をRT-PCRで定量し、正常例と比較した。正常例での発現を1.0とすると、脂肪肝では16.2±11.3と有意に増大していた(p<0.001)。DPP-4の肝での発現量と血中インスリン濃度との相関を評価すると、有意な負の相関が得られた(r=-0.683,p=0.0137)。同様に、HOMA-IRとの相関を評価すると、DPP-4とは負の相関が見られた(r=-0.5882,p=0.053)。血清コレステロール値とは正の相関(r=0.597,p=0.0147)を示したが、中性脂肪濃度とは相関しなかった。肝細胞株HEP G2細胞をさまざま栄養条件で培養し、DPP-4の発現を評価した。低グルコース(100mg/dl)で培養した場合のDPP-4の発現を1とすると、高グルコース(300mg/dl)の培養下では1.87±0.32(p<0.05)と増大していた。しかし、高インスリン条件(20ng/ml)でも発現は影響されなかった。オレイン酸(1mM)添加時には0.52±0.16、パルミチン酸添加時には0.63±0.27とDPP-4の発現は低下する傾向が認められた。以上より、GLP-1シグナル系を制御するDPP-4の肝での発現は、脂肪肝やインスリン抵抗性で大きく変化し、培養肝細胞でも栄養条件によって変化することが明らかとなった。このことは脂肪肝の発症・増悪にGLP-1シグナル系が深く関与していることを示唆していると考えられた。
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