培養細胞にて作製したJFH-1ウイルス、及びJFH-1株が分離された劇症肝炎患者急性期血清を二頭のチンパンジーにそれぞれ接種し、感染したHCV JFH-1株の全ORF領域の塩基配列を確認した。同定された変異をJFH-1株に導入し、その変異を持ったJFH-1株の培養細胞内での感染増殖能を比較検討した。培養細胞由来JFH-1ウイルスおよび患者血清ともにチンパンジー接種によりHCV RNA陽性となったが、ALT上昇は認めなかった。培養細胞由来JFH-1ウイルス接種チンパンジーではHCVは接種後約8週で排除されたが、患者血清接種チンパンジーでは接種後34週目までHCV RNA陽性であり、やや遷延化した経過をとった。そこで、患者血清接種チンパンジーに感染しているHCVの塩基配列を確認したところ、接種23週後に17個の非同義置換が同定された。これらの変異をJFH-1株に導入し、培養細胞内での増殖能を検討した結果、このJFH-1変異株では通常のJFH-1株に比べ、培養細胞内での増殖複製能は低かったが、ウイルス粒子生成効率が高く、その結果培養上清中に放出されるウイルス粒子量は高値を示した。さらにこのウイルスの感染細胞のアポトーシス誘導による反応性を検討した結果、変異株感染細胞ではアポトーシスが抑制されていた。HCV JFH-1株が分離された患者血清を接種したチンパンジーから得られた変異株は、培養細胞内では増殖効率は低かったがウイルス粒子生成効率が高く、その結果としてより多くの細胞に感染が拡大した。さらにこの変異株はアポトーシス抑制作用を持ち、生体内での変異により獲得されたこれらの機能が慢性感染の成立機序に関わっている可能性が示唆された。
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