【研究結果】1.通常、腺房細胞の頂端側には多数の酵素顆粒が赤色に、基底側には小胞体が紫色に染色されるが、IRF-2^<-/->マウスでは、核を除いた細胞質全体が赤色に染色された。電子顕微鏡で観察すると通常よりも小型の酵素顆粒が細胞質全体に密に広がっている像が観察された。また、通常では、頂端側の管腔から酵素顆粒が分泌される像が見られるが、その像が全く見られなかった。2.膵腺房細胞における酵素顆粒の分泌は、神経細胞などと同じくSNARE関連分子によって制御されている。頂端側細胞膜に位置するのSNARE蛋白質が減少し、酵素顆粒膜上のSNARE蛋白質が増加していた。3.頂端側細胞膜のSNARE蛋白の量的な減少と一致して、その染色性は低下していた。但し、局在に変化はなく、また腺房細胞の極性にも異常はみられなかった。4.血清中のエラスターゼ1、アミラーゼは低下していた。5.マウス膵より腺房細胞を単離した後、CCK8で刺激し、分泌されるアミラーゼ量を検討したところ、IRF-2^<-/->マウスの膵腺房細胞からはアミラーゼ分泌がみられなかった。 【考察】IRF-2^<-/->マウスでは酵素顆粒の分泌が障害されており、そのため細胞質全体に酵素顆粒が蓄積しているものと考えられた。ウエスタンブロット、免疫組織化学による検討でもそれを裏付けるものであった。実際IRF-2^<-/->マウス血清中のエラスターゼ1、アミラーゼは低下傾向を示し、単離膵腺房細胞はCCK8刺激によるアミラーゼ分泌を起こさなかった。以上から、このマウスでは酵素顆粒と細胞膜の結合・癒合が障害されていると考えられる。その障害のおおもとの原因を明らかにすることが今後の課題であり、膵炎発症のメカニズムの解明につながるものと期待される。
|