慢性膵炎は膵組織の破壊・脱落が非可逆性に進行する疾患で、アルコール性が半数以上を占める。アルコール性膵炎の発症機序についてこれまで様々な仮説が提唱されてきたが、近年飲酒により誘発されるエンドトキシン血症がアルコール性膵炎の引き金となる可能性が指摘されている。本研究ではマウスにエタノール/リポポリサッカライド(LPS)を投与してヒトの病態に類似した膵炎動物実験モデルを作製し、膵炎発症に及ぼす自然免疫と獲得免疫の役割について検討した。Severe combined immunodeficient(SCID)マウスにエタノール/LPSを投与しても膵炎が発症しないことより、SCIDマウスに正常マウス脾臓細胞、CD4T細胞分画、CD8T胞分画を各移入後、エタノール/LPSを投与して膵炎発症について検討した。脾臓細胞移入群では膵炎の程度が最も強く、次いでCD4T細胞移入群、CD8T細胞移入群の順であった。この膵炎モデルマウスでは、膵炎発症に獲得免疫系の関与が必須であり、CD4T細胞、CD8T細胞とも膵炎発症に関与していることが明らかとなった。野生型マウスの膵組織における8-OHdG免疫染色およびマロンジアルデヒド測定の検討では、エタノール/LPS投与で膵炎を発症したマウスで酸化ストレスの亢進が認められた。さらに、野生型マウスに膵炎を誘導する際にチオレドキシン(TRX)およびheat shock protein 70 (HSP70)を誘導するgeranylgeranylacetoneを連日経口投与したマウスでは膵炎の軽減がみられ、膵組織で因性抗酸化物質であるTRXおよびHSP70の誘導が認められた。以上よりアルコール性膵炎では酸化ストレスが亢進しており抗酸化治療が有効な治療法となることが示唆された。
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