研究課題
消化器固形腫瘍のなかでも膵がんは早期診断が難しく、多くの場合進行がんとなっていることが多く、しかも有効な化学療法剤が少なく、かつ第一選択薬が無効となった場合の予後は不良である。したがって、進行がんに対する新規医薬の開発は、当該疾患の医療にとって重要な課題である。本研究では、増殖性のウイルス製剤を医薬品として利用するもので、このウイルスによる細胞死は、抗がん剤による細胞死とその機序が異なっていると考えられ、同医薬品と従来の抗がん剤とは併用も可能であると想定される。発がん性がなく細胞障害活性が比較的高いアデノウイルスの増殖を、腫瘍細胞に特異的に誘導し、かつウイルスの標的細胞への感染効率を向上させた組換え型ウイルスを作製し、膵がんを対象に抗腫瘍効果を検討した。アデノウイルスに感染した膵がん細胞は、細胞周期におけるsubG1分画の増加をおこし、トリパンブルーでの染色法によって検出される細胞膜の傷害がおこり、実際に細胞死が誘導されていた。しかし、この過程の時間的経過は緩徐であり、一方この細胞死においてはCaspase-8,Caspase-9,Caspase-3,PARPのcleavageは弱かった。そこでオートファジーによる細胞死の可能性が考えられたが、Beclin-1,Atg5の発現上昇、LC3A/Bの移行も全く検出されなかった。したがって、現時点においてウイルス増殖による細胞死の機構は不明である。また、多くの膵がんではがん抑制遺伝子p53が変異あるいは欠失しているが、p53を発現させる非増殖性アデノウイルスを当該細胞に感染させると、細胞傷害活性が生じる。そこで、p53発現アデノウイルスと上記増殖性アデノウイルスを併用すると、さらに細胞傷害活性が増強した。p53経路の活性化とウイルスの増殖との関係についてはさらに検討を要すると考えられる。
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