研究概要 |
我々は、内因性ステロイド物質が、食塩感受性を介して拡張不全発症機序・病態に関与しているという仮説を構築した。preliminaryな実験では、内因性ステロイド物質の一つであるouabainは心筋に直接働き、特に線維化を亢進させる可能性が示唆された。また、Na+/Ca2+exchanger (NCX) reverse modeを選択的に阻害するSEA0400を血圧低下させない0.3mg/kgのSEA0400の投与が行われた高食塩食群は、高食塩食のみを負荷した群に比し、拡張不全の発症が抑制され、有意に予後が改善したことは、NCX reverse modeを修飾することによって、拡張機能を改善し拡張不全の進行を抑制する可能性を示唆したものと考えられた。以上の結果をもとに、今年度は次の研究を行った。 1) NCX reverse mode inhibitorの予後改善効果機序の検討 NCX reverse mode inhibitorであるSEA0400の投与にて、ダール食塩感受性ラットの予後が改善した機序を明確にするために、心不全発症直前である約17週齢における心機能、心形態、組織学的変化、生化学的変化を心エコー、心カテーテル検査、心筋組織検査を用いて行った。結果、SEA0400の0.3mg/kg/dayの投与にて左室重量、左室弛緩能は改善しなかったものの、左室心筋スティフネスの改善を認めた。また、組織検査から% area of fibrosisの改善、さらにcollagen-1 mRNAの発現現象を認めた。以上より、NCX reverse modeを修飾することによって一部心筋組織線維化を抑えることにより心臓の硬さを改善したことが、予後改善に寄与していると考えられた。 2) 拡張不全発症における心筋細胞スティフネスへの内因性ステロイド物質の役割について 内因性ステロイド物質は、Ca動態を変え、心筋細胞そのもののスティフネスを変えている可能性がある。そこで、ダール食塩感受性ラットのtrabecular skinned fiberを用いてCa-tension relationを計測、前述のSEA0400の投与下にて、Ca感受性とtensionに変化が生じるかを確認した。結果、高血圧群は正常血圧群に比しtotal passive force(PF), collagen-based PF, Titin-based PFともに、高い傾向にあり、投薬にて改善する傾向にあった。以上より、NCX reverse modeの修飾にて、心筋細胞スティフネスを変えている可能性が示唆された。
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