研究概要 |
我々は、内因性ステロイド物質が、食塩感受性を介して拡張不全発症機序・病態に関与しているという仮説を構築した。我々のpreliminaryな実験では、内因性ステロイド物質の一つであるouabainは特に高食塩にさらされている状況において、心筋に直接働き、特に線維化を亢進させる可能性が示唆された。また、Na+/Ca2+ exchanger (NCX) reverse modeを選択的に阻害するSEA0400を血圧低下させない0.3mg/kgのSEA0400の投与が行われた高食塩食群は、高食塩食のみを負荷した群に比し、拡張不全の発症が抑制され、有意に予後が改善したことは、NCX reverse modeを修飾することによって、拡張機能を改善し拡張不全の進行を抑制する可能性を示唆したものと考えられた。以上の結果をもとに今年度は次の研究を行った。 1, 拡張不全患者における尿中MBGi排泄測定 以前より収縮不全症例での各心不全時期における内因性ステロイド物質の変化は報告されている。そこで、拡張不全で入院加療の既往がある患者、もしくは拡張不全(EF>50、Framingham基準で心不全を満たす)の患者9名、および非拡張不全患12名(Framingham基準で心不全でないもの:多くは健常者を)について、尿中MBGiを測定した。結果、尿中MBGi、尿中MBGi/尿中クレアチニン比の双方において、少なくとも今回の症例では、両群に差を認めなかった。以上より、臨床においてMBG以外の物質の関与が考えられた。 2, 高血圧性拡張不全ラットモデルでの尿中ouabain濃度測定 高血圧性拡張不全モデルで、代償性肥大期(13週)、心不全期での尿中ouabain濃度を検討したところ、高血圧モデルは、正常圧モデルに比し、代償性肥大期、心不全期とも尿中の排泄が亢進していた。以上より、拡張不全に移行する以前からouabainはなんらかの形で産生が亢進していると考えられた。今後は引き続き、内因性ステロイドがどのような機序で拡張不全発症に貢献しているかを検討することとした。
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