高比重リポ蛋白コレステロール(HDL-C)は、動脈硬化の負の危険因子である。しかし、血清HDL値の制御機構は十分に明らにされていない。血管内皮リパーゼ(Endothelial lipase ; EL)は血清HDL値の主要な規定因子である。我々は、これまで血清EL濃度を測定するELISAや、血清を抗EL抗体で免疫沈降した後に、その活性を蛍光標識した合成リン脂質Bis-BODIPY FL C11-PCを基質として測定する系を開発してきた。本研究は、血清EL活性・蛋白量と血清HDL値との関係を明らかにすること、また冠動脈疾患の発症におけるHDL値とELとの関係を解析することを目指した。 本年度は、(株)免疫生物研究所との共同研究として、新規の抗ELモノクロナル抗体を作製し、血清中EL蛋白量を定量するためのELISAを改良した。新規のELISAではヒトEL血中濃度は319.9±9.0(74.6~1193.7)pg/mL.と既報より2桁低値を示した。また、ヘパリン投与前後でELの蛋白量に変化はなかった。ELは血管内皮細胞から分泌された後、血管内宮側にヘパラン硫酸プロテオグリカンを介して係留していると推察されてきたが、ELとプロテオグリカンの相互作用やヘパリンによる遊離の有無については、再検討が必要であると考えられた。また、前年度より継続してヒト血中EL活性と血清HDL-C値との関係を症例を増やして検討したところ、EL活性は血清HDL-C値と有意な逆相関関係を示したが、血清LDL-C濃度や中性脂肪濃度とは関連がなかった。また、冠動脈疾患患者は、非冠動脈疾患患者と比較して血清EL活性が上昇しているとともに高感度CRPが高値で、血清HDL-C値が低値であった。血清EL活性は冠危険因子と正の相関を示した。ただし、EL蛋白量と活性は有意な相関は示さず、これは血清中のELには不活性型が多いのかなどを含めて更なる検討が必要であると考えられた。
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