グレリンには、従来から示されているGH分泌促進作用などのホルモンとしての作用以外に、交感神経系の抑制と副交感神経系の活性化という自律神経系に対する作用があることを我々はすでに報告している。一方で急性心筋梗塞における機械的な迷走神経刺激はリン酸化したConnexin 43の消失を防ぐことにより抗不整脈効果を示したという報告がなされた。本研究では、グレリンがその自律神経作用により心筋細胞におけるConnexin 43の発現を保持し心筋虚血後の頻脈性心室性不整脈を抑制するという仮説を立て検証した。雄Sprague-Dawleyラットの左冠動脈を結紮し30分間の心筋虚血を起こし、その間にグレリン(100μg/kg)あるいは生理食塩水(生食群)を投与した。また、グレリンに加えアトロピンを投与した群を作成した。さらに、カプサイシン塗布による迷走神経求心性線維を特異的にブロックした群も作成した。その間心電図的に心室性不整脈の頻度を調べ、その後摘出心の生化学的・病理学的検討を行った。なお、対照として正常ラットの摘出心を用意した。生食群と比べ、グレリン投与群では、心室性頻拍性不整脈の出現頻度は有意に抑制された。Western blotting法によるリン酸化Connexin 43の発現量は、心筋虚血後の生食群では正常群と比べ著明に減少していたが、グレリン投与により有意に改善した。免疫組織染色でも、グレリン投与により心筋虚血後のリン酸化Connexin 43の発現低下が明らかに抑制されていた。しかしながら、グレリンの抗不整脈作用並びにConnexin 43に対する効果は、アトロピン投与の併用あるいは迷走神経求心性線維ブロックにより明らかに減弱した。グレリンは心筋細胞におけるConnexin 43の発現を保持し心筋虚血後の頻脈性心室性不整脈を抑制した。この機序としてグレリンの自律神経系特に副交感神経系への作用が関与している可能性が示唆された。
|