初年度では、まず心室細動の発生に関与する電気生理学的指標の有用性をコンピュータシミュレーションで評価した。次に、その結果が動物実験で得られた心室細動中の興奮波に応用できるかをマッピング解析で検証した。 1. コンピュータシミュレーションによる評価:心筋細胞の最新数学モデルとされるLuo-Rudy (Phase 3)モデルを用いて、数十万個のユニットからなる心室形状モデルを作成した。このモデルは、複雑な心筋構造を想定した壁の厚い領域と薄い領域が混在したものである。解析は、国立循環器病センター研究所のスパーコンピュータを用いて行われた。脱分極(QRS波)異常または再分極(T波)異常に関与するパラメータの設定を変更すると、電気刺激による心室細動の誘発が簡易になり、典型的な心室細動波形が認められ、持続しやすくなることが示された。 2. 実験的評価:上記のコンピュータシミュレーション解析で得られた結果および知見を参考に、以前に動物心臓(イヌ心室筋)を用いて得られていた心室細動中の興奮波の伝播パターンを詳細に解析した。その解析は、杏林大学に設置されてある高分解能のマッピング装置を用いて行った。脱分極異常(伝導障害)でも典型的な心室細動が認められたが、それよりも再分極異常のほうがより典型的な心室細動をきたすことが示された。心室細動、すなわち心臓突然死には脱分極異常よりも再分極異常のほうが関与しやすいと考えられた。 次年度は、本年度と同様にコンピュータシミュレーションとマッピング解析を行うが、同時に臨床例において電気生理学的指標、特に再分極異常指標の有用性を評価する予定である。
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