研究概要 |
まず前年度研究結果で明らかとなった、スタチンの脂質低下作用によらない心血管イベント抑制効果の免疫学的機序をAtherosclerosis, 213 ; 33-39, 2010に発表した。スタチンは、急性冠症候群(ACS)患者CD4T細胞のERKリン酸化を阻害することで、T細胞活性化(CD69)とTRAIL発現、さらに血管内皮細胞アポトーシスを抑制して粥腫安定化をもたらすと考えられた。本年度は、動脈硬化モデルであるApo Eノックアウトマウスにスタチンを投与し、動脈硬化進展抑制と粥腫でのCD4 T細胞浸潤の減少、TRAIL陽性CD4 T細胞発現の低下を確認した。 また、ACS患者末梢血soluble TRAILは急性期や重症例で低値を示し、血管内皮細胞障害の程度と逆相関を認めた。末梢血soluble TRAIL測定はACS診断において、高感度CRP測定よりも感度・特異度ともに優れており、新しいバイオマーカーとなる可能性があることを現在論文準備中である。 さらに、ヒト冠動脈・頚動脈における粥腫を病理学的に安定粥腫と不安定粥腫に分類し、TRAIL/TRAIL receptor(DR5)発現とCD4 T細胞の形質を比較検討した。不安定粥腫ではTRAIL陽性CD4 T細胞浸潤、DR5発現、接着分子PSGL-1陽性CD4 T細胞、アポトーシスを多く認めた。マクロファージやCD4 T細胞より産生されるTNFαは、血管平滑筋細胞にDR5発現の増強とアポトーシスを誘導し、抗TNFα抗体処理によりDR5発現とアポトーシスは抑制された。次年度は本年度の研究結果を総括の上さらに研究を進めると共に、マウスを用いてPSGL-1発現CD4 T細胞の粥腫不安定化やTRAILを含むアポトーシスシグナルへの関与を解明し、今までの研究結果を総括する。
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