世界に類を見ない速度で高齢化が進行している我が国では、心不全の病態解明と発症予防、さらに適切な治療法の開発は医学のみならず社会保障上の観点からも急務の課題になっている。アンジオテンシン変換酵素阻害薬やβ遮断薬は心筋障害の進展を抑制するとともに心不全の予後を改善し、心不全治療にパラダイムシフトを起こした。しかし、このような治療薬にも反応しない難治症例は数多く存在し、難治症例に対しては心臓移植が唯一の治療法となっている。難治性心不全を治療するためには心筋障害を直接修復する必要があり、心不全治療に新しい展開をもたらす新たな薬理作用ターゲット分子の発見が切望されている。 私たちは冠動脈造影にて異常を認めない8例の拡張型心筋症の患者さんを対象に検討を行った。右心室中隔より心筋生検を行った際に、文書により研究参加の同意を得られた患者さんの生検標本を一部冷凍保存した。また、血液検査および心エコー検査を行った。4例が組織ドップラー法に基づく評価にて左室拡張障害を認め(E/E'≧15)、4例が左室拡張機能が正常であった。左室拡張障害を認める症例と認めない症例との間で左室駆出率に差は認めなかった(34vs.28%)。左室拡張障害を認める症例では、拡張機能が正常な症例と比較して心筋生検標本における線維組織密度が高く(4.4vs.2.3%)、また、凍結心筋生検標本のマイクロアレイによる解析結果から、7種類のマイクロRNAが有意に(P<0.01)発現異常していることを明らかにした。左室拡張障害に関与するマイクロRNAは今まで検討がされていないため、新たな心不全治療ターゲットの同定につながる可能性があると考えられる。
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