研究概要 |
メタボリックシンドローム(MetS)は、罹患者数の多さと、生活習慣改善による効果を期待出来ることから、重点的に克服すべき心血管リスクであるが、MetSから動脈硬化・心血管病が発症・進展する機序は、十分には解明されていない。我々は、健常成人272名のCross-sectional studyを施行し、可溶性血管内皮増殖因子受容体soluble VEGF receptor-2(sVEGFR-2)がMetS群において有意に上昇していることを見出した。管内皮増殖因子(VEGF)は哺乳類の発生のみならず、成体における心血管機能維持にも不可欠な因子であるが、sVEGFR-2はそのVEGFの内因性阻害因子である。興味深いことに、多変量解析の結果、VEGFの独立した規定因子が血圧とBMIであるのに対して、sVEGFR-2の規定因子はインスリン抵抗性(HOMA-IR)と炎症(高感度CRP)であった。また、最近sVEGFR-2がVEGF-Cの内因性拮抗因子としてlymphangiogensisに重要な役割を果たすことが報告された。VEGF-CはVEGFR-3にC結合することでlymphangiogensisにおける中心的役割を果たす。しかし、VEGF-C/VEGFR-3経路あるいはlymphangiogenesisとMetSの関連は不明である。我々は健常成人239名のCross-sectional studyにおいてVEGF-CとsVEGFR-3がsVEGFR-2と密接に関連しながらMetS群で有意に上昇していること、VEGFよりもむしろVEGF-Cの方が動脈硬化惹起性脂質異常(non-HDL-C,LDL-C,中性脂肪)および血圧と有意に相関することを見出した(投降中)。これらの所見はMetSから動脈硬化・心血管病を発症する過程で、VEGF-C/VEGFR-3経路が、sVEGFR-2と関連して重要な役割を果たしている可能性を示唆するものであり、極めて興味深い。
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