研究課題
本研究では、自律神経活動および機械的負荷の変化が不全心の電気生理学的特性におよぼす時空間的影響を光学的心筋活動電位マッピング法を用いて詳細に検討し、コンピュータ・シミュレーションによる理論的解析を加えることによって、慢性心不全患者における致死性不整脈の易発生基盤を解明することを目的としている。本年度は、心筋梗塞後の心不全心蔵を対象として自律神経刺激および機械的負荷が心臓の電気生理学的特性におよぼす急性効果について検討を行なった。ラットを用いて左冠動脈前下行枝の結紮により心筋梗塞を作成した。4週後に自律神経つきランゲンドルフ潅流心標本を作成し、交感神経および迷走神経を刺激しながら心表面電位の光学的活動電位マッピングを行った。交感神経刺激は非梗塞部位では活動電位持続時間を短縮させたが、梗塞部位では活動電位持続時間の短縮は小さかった。その結果、交感神経刺激によって活動電位持続時間の空間的不均一性は大きくなった。迷走神経刺激は、交感神経刺激を同時に行なっている場合に活動電位持続時間を延長させ、空間的不均一性を小さくした。心筋梗塞後の心不全心臓においては交感神経刺激により電気的に不安定化し、迷走神経刺激は交感神経刺激により電気的に不安定化した心臓を安定化させると考えられた。また、ランゲンドルフ潅流心標本の左心室にバルーンを挿入し、パルス状に拡張させて機械的負荷を与えた。心電図上のT波付近の時相に拡張パルスを加えると期外収縮が発生した。期外収縮は拡張パルスにより大きく伸展される梗塞部周辺から発生していた。特定の時相に加えた拡張パルスでは期外収縮から心室細動が誘発された。これは心筋梗塞後心臓における突然死の機序の一部である可能性がある。
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生体医工学
巻: 48 ページ: 577-583