研究概要 |
家族性進行性心臓伝導障害(PCCD)は刺激伝導系の特異的な伝導障害を特徴とし、失神や突然死をきたす遺伝性不整脈である。本研究では、器質的心疾患を持たない本邦PCCD発端者47人と家族16人を登録し、その臨床像と遺伝子変異を解析した。平均11.6年(0.3-33年)の観察期間に、7人(14.9%)が突然死、21人(33.3%)が心不全を発症し、44人(70%),がペースメーカまたは除細動器の埋め込術を要した。遺伝子解析では、心筋NaチャネルSCN5A(9)、心筋KチャネルKCNH2(1)、拡張型心筋症の原因遺伝子である核膜タンパクラミンA/C LMNA(9)の変異が同定された。さらに、2例の突然死を伴う若年性悪性PCCD1家系において、心房筋と刺激伝導系に特異的に発現するギャップジャンクション(GJ) connexin40 (Cx40)の遺伝子変異Q58Lを同定した。内因性GJを欠損する細胞N2AにQ58L cDNAを発現させ、細胞間コンダクタンスをダブルパッチクランプ法で測定すると、Q58L細胞ペアのコンダクタンスは正常Cx40の1/10に減弱していた(正常=12.9±5.8nS,Q58L=1.2±0.7nS;P<0.01)。また、Q58Lは細胞膜上にび漫性に発現しており、膜の一部に集族する正常の発現パターンが障害されており、コネクソンサブユニット間の連関異常が示唆された。本変異は、心血管疾患におけるGJ遺伝子の生殖系列変異としては最初の報告である。一方、LMNAのキャリア9例はいずれも登録時には心不全はなく、経過中に78%が心不全を合併した。以上よりPCCDは心筋活動電位を形成するイオンチャネル、細胞間伝導にかかわるイオンチャネル、核膜タンパクなどを原因とする複雑な病態で、たとえある時期に心機能異常が正常でもその後拡張型心筋症に進展する可能性があることが判明した。
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