研究課題
【背景】心不全にエネルギー代謝の変化が伴うことは知られているが、どのようにその変化が生ずるか、又は、その変化が心不全進行において保護因子か、悪化因子かは明らかではない。【方法・結果】ダール食塩感受性ラットに6週齢から高食塩餌を投与し、高血圧を発症させた。ラットは11週齢で代償性心肥大をきたし17週齢から19週齢で心不全にて死亡した。代償性心肥大と心不全では異なった心臓エネルギー代謝を示した。代償性心肥大期には糖の取り込みが増加していたが、心不全期には更なる糖の取り込み亢進と脂肪酸の取り込み低下を認めた。心肥大期では糖代謝・脂肪酸酸化・ミトコンドリア機能に関する遺伝子発現は保持されていたが、心不全期では転写調節因子の減少とあいまってこれらの遺伝子発現は低下していた。メタボローム解析で114の解糖系、TCA回路、アミノ酸・核酸に関与する代謝産物を測定した所、心不全で解糖系から分岐するペントースリン酸回路が活性化されていることが明らかとなった。糖代謝を活性化するジクロロアセテート(DCA)の慢性投与により、心臓エネルギー供給と糖の取り込みが亢進した。DCAはダールラットの心機能と生存率を改善した。DCAは心臓でペントースリン酸回路を亢進させ、その結果、酸化ストレスを減少させ、心筋細胞の細胞死を改善した。【結語】心肥大から心不全への移行には心筋エネルギー代謝の異常が関与していた。DCAは心筋のエネルギー供給を増加させ、またペントースリン酸回路を活性化し酸化ストレスを軽減することにより心筋保護的に働く可能性が示唆された。心不全期における糖代謝の亢進の役割は、心筋エネルギー供給を増やすと同時に、ペントースリン酸経路の亢進による酸化ストレス軽減効果である可能性が示唆され、心筋エネルギー代謝異常は、心不全治療の新しい標的になりうる。
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