研究概要 |
我々は、従来より、心不全において蛋白ホスファターゼ1の細胞内活性の異常な上昇が起こっており、そのために心筋細胞内Ca2+ハンドリングが低下していることを報告してきた。本年度の研究では、それら研究結果をふまえ、以下の点を明らかにすべく、実験を行った。 1, PPlb左室心筋特異的KOモデルを使って、心筋内のPPlb抑制が心不全進行に予防的に働くかどうか検討する。 2, Adenovirus、Adeno-associated Virus VectorによるPPlβの抑制的遺伝子介入が心不全動物モデル(MLPKO)で心不全進行を予防するかどうか検討する。 PPlb心臓特異的KOマウスはHomozygoteが得られず、ノックアウトコンストラクトの影響が考えられた。 HeterozygoteにCreマウスを掛け合わせた、実験を行っていく予定であるが、交付期間内には実験が終了しなかった。PPlbの生体内心筋における影響、不全心筋におけるPPlb発現抑制効果について、AAVベクターに導入したPPPlCBのshRNAを組み込み心不全モデルマウスに遺伝子導入を行った。AAV9ベクターを用いて心臓選択的に遺伝子発現が起こり、心不全状態でのみPPlbshRNAが起こるようにベクター構造にBNPpromoterを組み込んだ。AAV9-BNPベクターは、発現効率評価のためにGFP遺伝子を共発現するようなシステムを用いたが、正常マウス(WT)ではGFPの発現は全く見られず、心不全モデルマウス(MLPKO)マウスの心機能が低下した週齢でのみ、GFPの発現が確認できた。PPlβ-shRNA導入群は、対照群に比べ有意に左室収縮性(EF)が改善し(心エコーで評価)、3ヶ月目に行った左室内圧測定では、明らかな心室拡張期特性(LV -dP/dt, tau)の改善がみられた。収縮性の指標であるLV maxdP/dtも、改善傾向がみられた。PPlbshRNA治療群では、BNPmRNA発現の有意な低下、心筋間質の綿維化の低下などがみられ、BNP発現制御によるPPlb発現の部分抑制が心不全進行予防に有益である可能性が示唆された。
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