心疾患発症進展や心筋細胞分化に関わる新たな分子機構を明らかにし、この分子機構を標的とした治療法や心筋細胞分化法の開発を行うことを目的として、単離心筋細胞を用いてシグナルシークエンストラップ法による発現クローニングを行った。その結果、いくつかの現在までに心筋細胞での発現の知られていない膜タンパクを同定することができた。その内、本研究ではPARM-1(prostatic androgen-repressed message-1)について更なる検討を進めたところ、PARM-1は心筋細胞特異的に発現し、細胞内ではERに存在することを明らかにした。培養心筋細胞では、その発現はサイトカイン刺激、ERストレスにより増強され、ダール食塩感受性ラットを用いた高血圧性心疾患モデルにおいては心肥大から心不全への移行期に、その発現が著明に亢進し、この発現亢進は心臓でのERストレスと関連していた。siRNAを用いたPARM-1の発現抑制によりERストレス下においてのみアポトーシスによる細胞死の増強が見られ、PARM-1は細胞死に対して保護的に働いていることが明らかとなった。さらに、PARM-1の発現抑制はERストレス下においてPERK、ATF-6の発現を抑制し、CHOP発現の著明な亢進をもたらしたがIRE-1、JNK、Caspase 12の発現、活性化には影響を与えず、PARM-1はERストレス状態におけるPERK、ATF-6の発現維持、CHOP発現抑制を介して細胞保護的に働いているものと考えられた。これらの結果からPARM-1は高血圧性心疾患における心臓リモデリングに関わる新規ERタンパクであり、その分子機構の解明は心不全発症進展のメカニズム解明に重要であると考えられた。
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