細胞老化は加齢に伴う血管老化と血管機能障害に関与し、血管石灰化は高齢者の血行動態をより不安定にする現象である。細胞老化の観点から血管石灰化におけるSirt1の役割を検討するため、今年度は、下記の実験を行った。 ●培養系実験:培養系血管平滑筋細胞の石灰化モデルを用いたSirt1の役割培養系ヒト大動脈平滑筋細胞(HASMC)への高リン刺激による石灰化誘導で、細胞老化形質(SAβ-gal活性上昇)が惹起され、Sirt1蛋白発現は低下し、この変化は石灰沈着の上昇に先行した。Sirt1活性の阻害(SirtinolやsiRNAによるノックダウン)により老化形質・石灰沈着は増悪し、Sirt1活性薬(Resveratrol、Sirt1のアデノウイルスベクター)による過剰発現では、老化形質・石灰沈着が抑制された。また、高リン刺激による石灰化誘導では、HASMCは骨芽細胞様形質転換(Runx2発現の上昇)が惹起され、その現象をSirt1は抑制した。これらの機序に、Sirt1抑制によるp21活性化の関与が大きいことが同定された。 ●動物実験:腎不全モデル動物での大動脈石灰化における細胞老化現象とSirt1の役割アデニン含有餌による高リン血症を伴う腎不全モデルラットに、メンケベルグ型大動脈中膜石灰化を誘導した。中膜の石灰沈着部位の周囲に多くの老化形質(SAβ-gal陽性)細胞が存在し、その程度は石灰沈着量に依存した。タイムコースでの検討では、微細な石灰沈着の発現の前に老化形質をとった細胞が多く誘導された。大動脈における蛋白発現の検討では、腎不全誘導によりSirt1発現は低下し、P21は著明に上昇した。今後、石灰化形成におけるSirt1/p21経路の関与をEx vivoモデルを用いて詳細に検討にすれば、Sirt1活性を保つことが石灰化抑制、ひいては血管弾性の維持につながることを証明できる可能性がある。
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