研究課題
本研究では、慢性感染により惹起された熱ストレスタンパク60(HSP60)に対する免疫反応が、動脈硬化を促進する直接的かつ詳細なエビデンスを探求した。抗体エピトープ解析で病原体とヒトとの交差免疫反応が起こっていると考えられるHp-HSP60_2領域を中心に、抗原ペプチドを用い、ヒトT cellエピトープの決定とHSP60特異的Tcellを樹立した。さらに独自の内皮細胞血管モデルを用いてin vitro実験系を作製し、内皮細胞に熱ストレス依存性にMHC依存性にHSP60抗原が提示され、動脈硬化の初期反応である炎症性細胞の内皮下への侵入現象が亢進することを見出した。また、各T細胞レセプターをノックアウトした動脈硬化モデルマウスを樹立し、これらを慢性感染実験に用いて、T細胞性免疫による動脈硬化促進効果を確認した。我が国では、H.pyloriを初めとする慢性感染病原菌に総人口の半数以上が感染していると推定されるが、多くの感染患者の場合、自覚症状がなく、また、無症状であれば除菌治療は保険適応が認められていないため、このような無症候性感染者は放置状態にある。つまり我が国においては、潜在的な動脈硬化発症リスクをもつ無症候性慢性感染者が非常に多く存在するにもかかわらずこれら感染者の対処方法に関する確固たるエビデンスがない。当研究の成果は慢性感染病原体が動脈硬化を促進するというより直接的かつ詳細なエビデンスになる。また、今回明らかとなったTcellエピトープに対する抗体製剤を用いることによって、完全な除菌が難しいC.pneumoniaeやP.gingivalis感染者の免疫反応を抑制し治療を行うことも可能である。このように従来の治療に加えて、除菌、免疫療法を行うことにより、中高年期の動脈硬化を予防し、その合併症である脳血管障害、虚血性心疾患の発症を抑制できると考えられる。
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Lupus 18
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