研究概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘息の炎症では、炎症細胞間、あるいは炎症細胞と組織構成細胞間の接触を介したシグナル伝達が重要な役割を果たしている。このようなシグナル伝達には共刺激分子が関与している。共刺激分子CD86の発見者である連携研究者(東みゆき博士:Azuma et al. 1993, Nature)は、最近、皮膚炎モデルでCD86を標的としたsiRNAを含有する軟膏の局所投与が皮膚の樹状細胞の機能制御を介して皮膚炎を改善することを報告した(Ritprajak et al. 2008, Mol Ther)。このことは、細胞間相互作用を標的にする核酸医学が有望であることを強く示唆する。標的分子の機能制御は全身的副作用のリスクを軽減する見地からできるだけ局所(呼吸器)に留まることが望ましい。われわれは安全かつ効率的にマウスに抗原や薬剤を経気道投与する実験系を確立した。この実験系を適用し、閉塞性肺疾患の細胞間相互作用を標的とするsiRNA療法をめざし、動物実験レベルの基盤的研究を構想した。 1) siRNAの投与条件を設定する実験 第一段階として、無処置マウスにsiRNAをさまざまな投与条件で気道内投与し、siRNA自体によって非特異的肺傷害などの副作用を生じない最大投与量、投与タイミングを決定した。 2) 喘息モデルへのsiRNA療法の応用実験 卵白アルブミンを抗原とし水酸化アルミニウムをアジュバントとするマウス喘息モデルにおいて、抗原の吸入曝露期間の直前およびその途中にsiRNAを最大投与量を超えない種々の条件で気道内投与し、一連の喘息反応(好酸球性気道炎症、気道粘液過分泌)がどのような影響を受けるかを検討した。その結果CD86 siRNA投与によって喘息反応が有意に抑制された。このような抑制作用はnon-coding siRNA投与では観察されず、CD86の発現抑制に基づく作用であることが確認された。
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