研究概要 |
COPDや喘息の炎症では、炎症細胞間、あるいは炎症細胞と組織構築細胞間の接触を介したシグナル伝達が重要な役割を果たしており、その多くに共刺激分子が関与している。共刺激分子CD86を標的とするsiRNAは、皮膚炎モデルにおいて皮膚の樹状細胞の機能抑制を介して皮膚炎を改善することが報告された。このsiRNAは軟膏として局所投与形式で有効であり、電気穿孔法やリポフェクションによる侵襲的投与と比べて臨床応用性が高い。気道炎症においても粘膜内の樹状細胞は重要な役割を担っており局所投与による炎症の治療が期待される。我々は閉塞性肺疾患の細胞間相互作用を標的とするsiRNA療法をめざす基盤的研究を遂行した。 1)siRNA投与の有効性を検証する細胞レベルの実験 siRNAの標的細胞はCD86を高発現する樹状細胞である。我々はマウス骨髄から分化誘導した樹状細胞においてLPS刺激によりCD86発現を誘導した。このCD86誘導をsiRNAは抑制した。CD86はTh2リンパ球の活性化を誘導し、喘息の気道炎症に寄与する。我々は卵白アルブミン特異的Th2細胞を分化誘導し、抗原と樹状細胞と共培養する実験系を確立した。この実験系でsiRNAはTh2活性化によるIL-5,IL-13の産生を抑制した。 2)喘息モデルへのsiRNA療法の応用実験 卵白アルブミンを吸入抗原とするマウス喘息モデルにおいて、抗原の吸入曝露期間の直前とその途中にsiRNAを気道内投与し、喘息反応への影響を検討した。蛍光プローブ標識siRNAの気管内投与により標識siRNAの気道粘膜への沈着を確認することができた。siRNAは好酸球性気道炎症を抑制し、IL-5,IL-13の産生を抑制した。さらに、siRNAは吸入アセチルコリンに対する気道反応性を部分的に抑制し、血清中の卵白アルブミン特異的IgE上昇を有意に抑制した。 以上の成果に基づき、気道の樹状細胞を標的とするsiRNA投与は、閉塞性肺疾患に対する核酸医学の治療的応用として有望と考えられた。
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