私どもが提唱した「細胞死と老化仮説」に基づいて、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態形成機序を解明することを目的とし、一連のin vitro、in vivoの研究を行った。その結果、1)COPD患者では、健常者に比べて肺胞上皮細胞や末梢気道のクララ細胞の老化が進行していること、2)COPD患者で老化した肺胞上皮細胞やクララ細胞においては、NF-κBやp38-MAPKなどの細胞内炎症性シグナルが活性化していること、3)in vitroで老化させた培養肺胞上皮細胞やクララ細胞では、NF-κBやp38-MAPKの活性化が生じてTNFα、IL-1β、IL-6、IL-8、GM-CSFなどの炎症性サイトカインが多量に産生されていること、4)ナフタレンとBrdUの反復投与によりクララ細胞を老化させたマウスでは末梢気道の炎症細胞浸潤とp38-MAPKの活性化が生じており、p38MAPK阻害薬の全身投与により末梢気道の炎症が抑制されること、が明らかにされた。以上の結果から、COPD患者では末梢気道細胞や肺胞上皮細胞が老化しているために、肺胞や末梢気道の再生障害が生じているのみではなく、慢性炎症が生じていると考えられた。一方、p38-MAPK阻害薬の投与はこのような細胞老化による気道炎症を抑制することが示された。以上の成績は、COPDの病態形成機序における細胞老化の重要性を指摘するとともに、COPDがなぜ高齢者に多いのか、禁煙後もなぜ肺や気道の炎症が持続するのかについて一定の説明を付与するものと考えられた。
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