慢性閉塞性肺疾患(COPD)の病態形成機序を明らかにする目的で、肺胞細胞のDNA障害について検討した。肺癌切除術または肺容量減少術時に採取されたヒト肺組織(COPD患者14名、喫煙者7名、非喫煙者10名)からパラフィン包埋切片を作製し、蛍光免疫染色法を用いてγH2AX、53BPI、phospho-ATM substrates(DNA障害の使用)、active caspase-3(アポトーシス)、p16(細胞老化)、phospho-NF-κB、IL-6(炎症)、8-OHdG(酸化ストレス)の発現を検討した。I型上皮細胞、II型上皮細胞、内皮細胞は、それぞれaquaporin-5、SP-C、CD31に対する蛍光免疫染色法により同定した。COPD患者の肺組織では対照喫煙者および対照非喫煙者に比べて、I型上皮細胞、II型上皮細胞、内皮細胞のγH2AX、53BPI、phospho-ATM substratesの発現が増加していた(p<0.01)。γH2AXの発現が高度な肺組織では、active caspase-3、p16、phospho-NFκBおよびIL-6の発現が高度であった(r^2=0.34~0.64)。またγH2AXを高度に発現しているII型上皮細胞ではactive caspase-3、p16およびphospho-NFκBの発現が高度であった。8-OHdG陽性のII型上皮細胞ではγH2AXの発現が高度にみられた。さらに3か月喫煙曝露を行ったモルモットの気腫は胃組織では肺胞壁細胞のγH2AXの発現が高度であった。以上の結果から、COPDの肺組織における炎症、アポトーシス、細胞老化の原因として酸化ストレスによる肺胞細胞のDNA障害の関与が考えられた。このような持続性のDNA障害が禁煙後もCOPDが進行する機序である可能性が考えられた。
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