前年度に引き続き、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の肺胞細胞のDNA障害について検討した。肺癌切除術または肺容量減少術時に採取されたヒト肺組織からパラフィン包埋切片を作製し、蛍光免疫染色法を用いてγH2AX、53BPI、phospho-ATM substrates(DNA障害の指標)、active caspase-3(アポトーシスの指標)、p16(細胞老化の指標)、phospho-NFκB、IL-6(炎症の指標)、8-OHdG(酸化ストレスの指標)の発現を検討した。I型上皮細胞、II型上皮細胞、内皮細胞は、それぞれaquaporin5、SP-C、CD31に対する蛍光免疫染色法により同定した。COPD患者の肺組織では対照喫煙者および対照非喫煙者に比べて、I型上皮細胞、II型上皮細胞、内皮細胞のγH2AX、53BPI、phospho-ATMsubstratesの発現が増加していた。γH2AXの発現が高度な肺組織では、activecaspase-3、p16、phospho-NFKBおよびIL-6の発現が高度であった。またγH2AXを高度に発現しているII型上皮細胞ではactive caspase-3、p16およびphospho-NFκBの発現が高度であった。8-OHdG陽性のII型上皮細胞ではγH2AXの発現が高度にみられた。以上の結果から、COPDの肺組織における炎症、アポトーシス、細胞老化の原因として酸化ストレスによる肺胞細胞のDNA障害の関与が考えられ、COPDの統合的発症仮説として「DNA障害仮説」をヨーロッパ呼吸器学会雑誌に公表した。この仮説によれば、なぜCOPDが高齢者に多いのか、なぜ進行性なのか、なぜ発癌が多いのか、なぜ禁煙しても病態が進行するのかについて説明が可能になると考えられた。
|