研究概要 |
気道上皮の物質透過性制御の破綻は、環境刺激に対する感受性を高め、気管支喘息やCOPDなどの慢性気道炎症の病態と深く関係しているが、気道の物質透過性がどのような因子によって制御されているかは未だ明らかでない。そこで我々は、気道の透過性を制御する因子を同定し、気道炎症発症への関与、病態における役割、治療標的としての可能性について検討することを目的に研究を行った。培養ヒト気道上皮細胞培養液中に含まれる様々な物質の中から、EGFが細胞間透過性の調節とTight junction形成に重要な因子であるという結果が得られた。さらにEGFは、比較的低濃度では透過性バリア形成に促進的に、高濃度では逆に抑制的に作用することがわかった。EGFの受容体はErBB1であるが、ErbB1は、その他ErbB受容体ファミリーとヘテロダイマーを形成しうる。ErbB1とその他ErbB受容体の活性化、各リガンドが気道上皮透過性に及ぼす影響について解析を行った。気道上皮細胞表面上にはErbB4以外のErbB1-3の発現がみられた。ErbB1(+B4)リガンドであるHB-EGFや、ErbB3(+B4)リガンドであるHeregulin(HR)は気道上皮の透過性バリア形成に対し促進作用示したが、EGFとは異なり、高濃度での抑制作用は示さなかった。ErbB1-siRNAによるknockdown(KD)は、低濃度・高濃度のEGFの作用及びHB-EGFの作用を抑制したが、HRの作用には影響を及ぼさなかった。ErbB3-siRNAのKDは、低濃度EGF,HB-EGF,HRによる促進作用は抑制したが、高濃度EGFによる抑制作用には影響しなかった。以上のことから、気道上皮細胞上に発現するErbB1の活性化状態の違いにより、透過性バリア形成に対し正負それぞれに働く異なった細胞内シグナルが誘導される可能性が考えられた。
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