研究概要 |
慢性閉塞性肺疾患の罹患数は年々増加しており、肺気腫疾患もその1つである。近年骨髄由来幹細胞を用いた治療効果が本疾患モデルで報告されているが、脂肪組織にも間葉系幹細胞に類似した性質を持つ脂肪組織由来幹細胞(adipose-derived stem/stromal cells ; ASCs)が存在し、我々はかねてよりASCsによる細胞治療の可能性に着目してきた。そこで本研究ではエラスターゼ誘導肺気腫モデルラットに対するラットASCs移植の効果を検証するため以下検討した。【方法】ASCsはラット鼠径部皮下脂肪組織から得られた2継代目の細胞を用いた。ブタ膵酵素エラスターゼ(PPE)(250U/kg)をラット気管内に投与し肺気腫を誘導し、1週間後にラットASCsを経静脈的に移植(2.5x10^6cells/500μL/20min)した。細胞移植1週間後と2週間後に動脈血を採取してガス圧分析を行った。同時に肺を摘出し組織学的検討、サイトカイン量解析を加えた。【結果】エラスターゼ投与肺気腫モデルにみられる呼吸機能の有意な低下(PO_2,PCO_2,SO_2)を、細胞(ASCs)移植群は有意に改善した。また同時にASCs移植群は、障害による肺胞径の拡大を有意に抑えた。したがってASCs移植は、肺気腫疾患に対する細胞治療効果に有用である可能性が示唆された。エラスターゼ誘導による肺機能傷害に伴いHGF産生が有意に低下したが、ASCs移植群では、呼吸機能の改善とともにHGF産生が有意に亢進した。またVEGFも肺機能傷害に伴い低下したが、ASCs移植群では低下が抑えられた。一方IL-1βについては、エラスターゼ投与単独群およびASCs移植群で大きな差異はみられなかった。さらにASCsの果たした役割について検証を重ねている。
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