研究課題/領域番号 |
21590976
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
武永 美津子 聖マリアンナ医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (10236490)
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研究分担者 |
太田 有紀 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 助教 (60387066)
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キーワード | 慢性閉塞性肺疾患 / 細胞治療 / 脂肪組織由来体性幹細胞 / 肺気腫 / 再生治療 |
研究概要 |
【背景・目的】肺気腫疾患を含む慢性閉塞性肺疾患の罹患数は年々増加している一方で、根治療法は未だ確立されていない。我々は脂肪組織由来幹細胞(adipose-derived stem/stromal cells;ASC)による細胞治療の可能性に着目しており、本研究でエラスターゼ誘導肺気腫モデルラットに対するASC移植の治療効果の検証を試みた。【方法】ASCはラット鼠径部皮下脂肪組織から得られた2継代目の細胞を用いた。ブタ膵酵素エラスターゼ(porcine pancreatic elastase;PPE)(250U/kg)をラットに気管内投与し肺気腫を誘導、1週間後にASCを経静脈的に移植(2.5x10^6 cells/500μl/20min)した。細胞移植前後に動脈血を採取してガス圧分析を行った。【結果】PPE投与によって、肺胞径の拡大および呼吸機能の低下を特徴とした疾患モデルが作製できた。細胞(ASC)移植すると、PPE投与肺気腫モデルにみられる酸素分圧(PO_2)の有意な低下、および肺胞気・動脈血酸素分圧較差(A-aDO_2)の有意な上昇を、正常動物とほぼ同等な値まで有意に改善させた。同時にASC移植群は、傷害による肺胞径の拡大を有意に抑えた。PPE投与による肺機能傷害に伴い再生修復因子であるhepatocyte growth factor(HGF)産生が有意に低下したが、ASC移植群では、呼吸機能の改善とともにHGF産生が有意に亢進した。また白血球遊走因子の1つであるcytokine-induced neutrophil chemoattractant-1(CINC-1)の低下を有意に抑えることを見出した。これらは血管新生作用を示した。ASC移植細胞が病変部位に生着することは、green fluorescent protein(GFP)発現ASCを用いた移植で明らかにした。移植時PPE誘導肺ではIL-1βが有意に増加しており、in vitroの培養下、ASCがHGFやCINC-1を多く産生するだけでなく、IL-1β存在下でこれらの産生が有意に増加することを見出した。この静脈経由の移植法は、ヒトでの点滴移植を想定したものである。今回のラット同種移植に際し、投与細胞密度、移植速度をじゅうぶん検討したうえで行われたものであり、動物に無理のないまた問題のない移植条件であった。【結論】PPE誘導肺気腫モデルへのASC移植は、低下していた呼吸機能をほぼ正常値付近まで回復させ、また肺胞径の増大を顕著に抑制した。本研究で得られた効果の機序として、ASC移植細胞が病変部位に生着し、HGFやCINC-1などの血管新生に関与している因子を産生し続けることが、肺の再生修復に必要な血管新生を促し、さらには呼吸機能の有意な改善を導いたと考えられた。したがってASC移植は、肺気腫疾患に対して有効な細胞治療法となりうる可能性が高いと結論付けられた。
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