研究概要 |
昨年、我々は特発性肺線維症患者の外科病理標本を用いて、免疫染色を施行し、CRKI/II及びCRKの下流蛋白であるDock180,C3Gが肺胞上皮細胞及び間質の線維芽細胞に強く発現することを示し、肺線維症における病的線維化の過程において、肺胞上皮細胞及び線維芽細胞におけるCRKの発現を介したシグナル伝達が関与している可能性を示した。 本年度は肺胞上皮細胞に着目しin vitroの系を用いて、CRKを強発現することによって引き起こされる線維化へのメカニズムを検討した。特に、上皮-間葉移行に着目し、以下の方法を用いて実験を行った。肺胞上皮細胞株としてA549細胞を用い、レトロウィルスベクターを使ってCRKI高発現株、CRKII高発現株を樹立し、コントロール細胞と比較検討を行った。線維化において中心的な役割を果たしているサイトカインであるTGFβ1を5ng/mlで刺激し、48,72時間後にmRNA及び蛋白を抽出した。EMTに関与する転写因子であるslug及び間葉系マーカーであるvimentinのmRNA発現量をsemi quantitative RT-PCR法を用いて測定した。また、肺線維化部分で高発現しているMMP-2,9のmRNAの発現をsemi-quantitative PCR法を用いて測定し、上皮性マーカーであるE-cadherin,間葉系マーカーであるfibronectinの蛋白量を、ウェスタンブロッティング法を用いて定量した。CRKII高発現A549細胞では、TGFβ無刺激の状態でもVimentin mRNA,MMP-9が高発現が認められた。また、TGFβ刺激後にはE-cadherinは減少しVimentin及びMMP9 mRNAはさらに増加した。 以上より、肺線維症病変の肺胞上皮におけるCRKの発現はEMTを介した肺の線維化に関与している可能性がある。
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