研究概要 |
研究代表者と研究分担者は、障害環境下(紫外線照射、低酸素、アシドーシスなど)においてヒト線維芽細胞またはヒト肺胞上皮細胞と、ヒト間葉系幹細胞を、細胞非透過性・液性因子透過性の半透膜を介して共培養すると、間葉系幹細胞の中で海洋魚類で細胞内へのカルシウム流入を抑制することが知られ哺乳類にも幅広く保存されているホルモンSTC1(Stanniocalcin1)の産生亢進し・傍分泌することを介して、線維芽細胞・肺胞上皮細胞のアポトーシスを抑制することを、その遺伝子網羅的解析を通して明らかにした(Stem cell 23, 2009, 670-81)。今までの研究でSTC1はミトコンドリアに局在しミトコンドリアの機能に関連することが推測されていたが、海洋魚類のカルシウム代謝に及ぼす作用以外におけるSTC1の役割が明確でないため、今年度は問葉系幹細胞由来STC1がいかにしてヒトの障害環境下にある細胞の障害を抑制するかについて検討した。 紫外線照射、低酸素、アシドーシスなどによる障害に共通するのは細胞内の過酸化物(ROS)蓄積であること、ROSの主な産生部位がミトコンドリアであること、STC1の局在がミトコンドリアにあることよりSTC1がROS産生を抑制するという仮説を立てた。主に肺胞上皮細胞株を用いた検討で、この仮説を証明するとともに、STC1は主にミトコンドリアのUncoupling Protein2(UCP2)の発現を高進させることを介してそのROS産生抑制作用を示すことを示した。またSTC1はUCP2亢進を介して嫌気性代謝を誘導する(Warburg効果)ことも見出した。間葉系幹細胞が障害下の細胞に嫌気性代謝を誘導することを介して障害を回避していると考えると、非常に興味深い。 これらの研究は2010.3現在、Cancer Research紙でReviseであり、2010年度早期の掲載を目指している。また米国胸部疾患学会と欧州呼吸器学会総会にて研究成果を発表予定である。
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