【背景】キナーゼの機能異常は疾患の原因、特に癌細胞の増殖、移動、浸潤やアポトーシスの調節に関与し、特にcAMP依存性キナーゼ(PKA)は細胞内シグナリング、代謝、増殖など多機能の役割を担っていることがわかっている。米国National Cancer Institute(NCI)のChoらのグループは、様々な癌細胞の培養上清からPKAが異常分泌されていることを報告したが(PNAS 2000)、細胞から血流中に放出されたPKAを細胞内に存在するものと区別し、ECPKA(Extracellular protein Kinase A)と呼び、癌患者血清中のECPKA活性を測定したところ、健常人に比較し有意に高いことを報告した(Cancer Epideiol Biomarkers Prev 2007)。さらに、同グループでは、ECPKAに対する自己抗体量を495症例の血清で測定、癌患者で有意に高値化することを示し、感度90%、特異度88%であり、ROC曲線のAUCは0.937との結果を報告した(Cancer Res 2006)。このような背景を鑑み泳動パターン解析を試みる前段階としてECPKA自己抗体の肺腫瘍マーカーとしての有用性を検討した。 【方法】SignalChem社の活性リコンビナントPKA及び、抗ヒトIgG抗体(POD標識抗ヒトIgGを作成し、独自のELISA系を新たに構築した。臨床検体として肺癌症例血清76例、肺炎症例血清13例、健常血清10例を用いて、ECPKA自己抗体の肺癌マーカーとしての有用性を評価した。標準物質が存在しないため各疾患群の発光シグナル量で評価した。 【結果】感度52.6%、特異度47.8%、AUC:0.5715であった。NIのChoらの検討結果に対し、大幅に劣る結果となった。また、ECPKA自己抗体量は病期、癌種などとの相関も無く、肺がんのマーカーとしての有用性は認められなかった。 【考察】NCIのChoら報告と比較すると結果は乖離しており、その乖離の原因として、(1)用いたリコンビナントPKAが異なる(2)肺がんでは上昇しにくいマーカーであるなどの可能性が考えられるが、今回の結果からは、目的とする感度の高い肺癌マーカーとしての性質を有する可能性は低いと判断した。 この実験系での経験を生かし、糖蛋白を中心に他の臨床応用可能な物質に着目して検討を継続中である。
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