【背景】腫瘍マーカーの多くは、臓器特異的でないものが多く、そのため原発部位の鑑別のため、複数の侵襲的検査を必要とする例が少なくない。さらにびまん性汎細気管支炎などの慢性呼吸器疾患では、複数の腫瘍マーカーの偽陽性率が高いことも知られている。腫瘍マーカーの多くは糖蛋白抗原であり、ELISA法などによる測定「値」が臨床の場に提供されるが、この結果は糖鎖の一部を構成する抗原の多寡のみを反映した情報である。糖鎖構造は、良悪性間で、また原発部位が異なる癌腫間で一致しているかどうかは、明らかではない。本研究の目的は、泳動パターン解析を可能とする最適な泳動検査法を確立し、原発部位診断に有用な簡易な診断法を開発することであった。 【方法】1)市販の抗CEA抗体を用いた検討2)抗CEAポリクロナル抗体の作製および泳動での反応性の確認3)癌細胞の培養4)CEAに関するウェスタンブロット5)癌症例血清CEAに関するウェスタンブロット6)癌症例血清CAI9-9に関するウェスタンブロットを実施した。 【結果】糖蛋白腫瘍マーカーであるCEAについては市販の抗体を用いた泳動は不可能であることが確認されため抗CEAマウスポリクロナル抗体を作製した。CEA産生、非産生ヒト癌培養細胞株を用い、作成した抗体を用い泳動をおこなったところCEA産生株では150-175kDのバンドが確認された。さらに複数の癌腫症例の血清を用い作成した抗体を用いてウェスタンブロットを実施した。その結果、いずれの癌腫でも梯子状のバンドの発現であったが、肺腺癌、大腸癌では150kD以上の分子量部位に複数のバンドがみられ、膵癌では当該部位より小さな分子量のバンドがみられ、泳動パターンが異なることが確認された。CAl9-9については、市販の抗体で膵臓癌、大腸癌症例での泳動パターンが確認された。びまん性汎細気管支炎などの慢性呼吸器疾患での発現は今後の課題である。 【考察】泳動用の抗体作成、適切な泳動条件の確立により糖蛋白腫瘍マーカー血中高値例の原発部位推定や偽陽性の鑑別に有用な鑑別診断法の確立への道筋が立てられた。
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