肺腺癌の前癌病変とされる異型腺腫様過形成は、末梢気道上皮の肺胞置換増殖性病変である。細気管支肺胞上皮癌(bronchioloalveolar carcinoma : BAC)は、2cm以下の肺腺癌を腫瘍内に線維化巣を認めない野口A型、肺胞虚脱型の線維化を認めるB型、活動性線維芽細胞の増生を認めるC型に分類され、A型とB型の予後は極めて良好であり、生物学的には前浸潤性病変と考えられている。A型、B型よりC型の浸潤癌に至る過程を、当科で作製したexon 19[15bp in-frame deletion (nucleotides 2242-2256) SP-C-Egfrmutant-SV40]のEGFR遺伝子改変マウスの肺腫瘍組織を用いて検討した。免疫組織染色およびWestern blottingにより、EGFRシグナル伝達経路の下流と考えられているSTAT3がEGFRと平行して動いていないことが示された。とくにEGFRは腫瘍の中心部に発現し、STAT3は腫瘍の浸潤先端部位に強く発現していることを見出した。このことはBAC型肺癌の臨床検体50例の検討で検討したところ、同様の傾向が認められた。次にSTAT3を抑制することで、腫瘍あるいは発癌を抑制することができないかを模索した。EGFR変異を有するPC-9と野生型EGFRを有するA549はいずれもJAK2/STAT3の系を抑制する小分子化合物であるJSI-124に対して感受性が高かった。すなわち、EGFR変異の有無にかかわらず、JSI-124は有効である可能性が示唆された。現在、JAK2阻害剤とEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の腫瘍抑制に対する併用効果を検討している。
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