手術不能の肺癌の予後は今なお不良であるが、その主因の一つとして、現在の化学療法・放射線療法に耐性の"がん幹細胞"の存在が考えられている。しかし、がん幹細胞が肺癌すべてに存在するのか否か、どのように発生し分布するのか、明らかではない。一方、テロメラーゼが不活化されている正常体細胞ががん化し不死化がん細胞となるには、p53、p16/Rb経路の不活化が必須であると考えられている。ゆえに我々は、肺癌組織および細胞株の遺伝子変異解析より、この経路が不活化されていない不死化がん細胞はテロメラーゼ陽性正常幹細胞→がん幹細胞という経路を経たCancer stem cell modelのがんであると考え、肺腺癌にその一群がある一方、扁平上皮癌の殆どはStochastic clonal evolution modelがあてはまるという結果を得た。この結果および組織別発生頻度から、原爆被爆では前者、毒ガス被毒では後者モデルに基づく肺癌発生が誘発された可能性も示唆された。さらに、肺癌発生モデルとして正常気道上皮にテロメラーゼ遺伝子TERTおよびSV40 early antigensを遺伝子導入したin vitroトランスフォーム細胞では、増殖とともにORFが短いvariant TERT mRNA発現が誘導されて悪性度が増強してくること、Cancer stem cell model由来と推察した肺腺癌細胞株でも同様現象を認め、この誘導がテロメラーゼ陽性細胞の肺癌発癌進展過程に関わる可能性も示唆された。
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