本研究は癌細胞に高い感染性を有する改変アデノウィルスベクターを用いて胸水中の癌細胞を検出し、癌性胸膜炎の診断精度を高めることである。各種の改変アデノウィルス(Ad5/3CMVluci、Ad5/3CMVGFP)については大量調整およびタイター測定については昨年度報告したとおりに実施した。具体的には各種ウィルスをそれぞれHEK293E1細胞に感染させ、感染細胞を回収後凍結、融解を繰り返すことで細胞を破砕して粗ウィルス溶液を調整した。その後、塩化セシウム溶液に粗ウィルス溶液を重層し超遠心によって高濃度のウィルス溶液を分離した。分離したウィルス溶液はグリセロール添加PBS溶液中で透析し、TCID50法によってウィルス力価を定量した後に感染実験に用いた。また、実際の臨床検体を用いた感染実験についても昨年度に確立した方法に従って行った。具体的には溶血によって赤血球を除去した後に遠心によって細胞成分を分離し、細胞培養液で新たに細胞浮遊液を調整してウィルス感染を実施した。今年度は臨床検体数を増やして実験を行った。また、昨年度の実施した検体についてその後の臨床経過を追跡し、最終的な臨床診断を確定した。その結果、ルシフェラーゼ活性値のカットオフポイントとして2471 Unitを用いたところ、感度は75%と比較的良好な値を得た。しかしながら、明らかな良性胸水においても極めて高値を示す検体が存在し、その主たる感染細胞についての検討が課題として残った。次年度は偽陽性例についての検討を行い、最終的に従来の形態学的な細胞診の方法との比較を行う予定である。
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