本研究は癌細胞に高い感染性を有する改変アデノウィルスベクターを用いて胸水中の癌細胞を検出し、癌性胸膜炎の診断精度を高めることである。各種の改変アデノウィルス(Ad5/3CMVluci、Ad5/3CMVGFP)については大量調整およびタイター測定については昨年度報告したとおりに実施した。また、実際の臨床検体を用いた感染実験についても昨年度に確立した方法に従って行った。前年度までの結果では、ルシフェラーゼ活性値のカットオフポイントとして2471 Unitを用いたところ、感度は75%と比較的良好な値を得たが明らかな良性胸水においても極めて高値を示す検体が存在し、その主たる感染細胞についての検討が課題として残った。上記のGFP発現アデノウィルスを用いて良性細胞の同定をはかったところ、血球細胞への感染性はほとんどみられなかったが、一部の中皮細胞に感染を認めた。同細胞におけるルシフェラーゼ活性の増加が感度を低下させる原因と考えられた。中皮細胞のみを効率的に除去することは困難であるため、癌細胞においてルシフェラーゼ活性をさらに増加させる方法について検討した。VEGFプロモーターで増殖が誘導される制限増殖型アデノウィルスを(Ad5/3VEGF-E1)をAd5/3CMVluciと混合して実験をおこなった。その結果、制限増殖型アデノウィルスとルシフェラーゼ発現ウィルスが共感染したがん細胞では制限増殖型アデノウィルスの増殖が生じ、それに伴ってルシフェラーゼ発現ウィルスゲノムも増幅された。共感染によって癌細胞におけるルシフェラーゼ活性は増加したが、時間が経過すると制限増殖型アデノウィルスの殺細胞効果のためむしろルシフェラーゼ活性は低下した。経時的な定量では感染後24-48時間で活性はピークに達し従来の方法よりも改善されたが、診断の迅速性については問題が残った。
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