悪性中皮腫はアスベストを原因とする胸腹膜などを原発とする予後不良の悪性腫瘍であり、その原因の一つに本癌腫が抗癌剤に対して極めて耐性であることが挙げられる。一方、悪性胸膜中皮腫の組繊、胸水中には以前からヒアルロン酸(HA)やオステオポンチン(OPN)などの細胞外マトリックス蛋白が豊富に存在し、ともにCD44のリガンドであることから、中皮腫細胞表面に発現するCD44とHAおよびOPNとの相互作用は中皮腫の病態に深く関与していると考えられる。我々は現在までに、ヒト中皮腫細胞株であるACC-MESO-1にOPN遺伝子導入を行い、OPN強発現細胞株ACC-MESO-1/OPNを樹立した。ACC-MESO-1/OPNは著明に各種抗癌剤に耐性を示し、HAへの接着も亢進した。CD44はalternative splicingにより複数のisoformができることが知られているが、HAとの接着を低下させることが報告されているexon 14(V10)を含むHigh Molecular weight CD44 isoformがACC-MESO-1/OPNでは著明に減少していた。またACC-MESO-1でのCD44 V10のknockdownは各種抗癌剤耐性を誘導した。CD44やOPNのknockdownやCD44中和抗体を用いたCD44-HA相互作用の阻害はACC-MESO-1/OPNの各種抗癌剤への多剤耐性を減弱させた。またACC-MESO-1/OPNではAKTのリン酸化も亢進しており、CD44 knockdownによりこのAKTリン酸化は抑制されること、AKT阻害剤であるLY294002によりOPNによる抗癌剤多剤耐性はreverseしたことから、CD44を介したAKT pathwayの活性化がOPN誘導抗癌剤多剤耐性に重要である可能性が示唆された。今年度は上記以外にin vivoマウス実験も試みたが、ACC一MESO-1でのin vivo systemがうまく構築出来なかったため、来年度以降の目標とする。また悪性中皮腫においてOPNによって誘導される抗癌剤多剤耐性のメカニズム、そしてCD44を介したシグナル伝達の更なる解明を目標とし、悪性中皮腫の予後を不良にしている抗癌剤耐性克服を目指す。
|