研究課題
本研究の目的は、n-3系多価不飽和脂肪酸であるEicosapentaenoic acid(EPA)、Docosahexaenoic acid(DHA)の静注可能な乳剤を開発し、シスプラチン誘発ラット急性腎不全モデルへの効果を検討して、臨床応用への可能性を模索するものである。EPA、DHAをαトコフェロール、卵黄レシチンとともに乳化して脂肪酸乳剤を作成した。ラット急性腎不全モデルは、5mg/kgのシスプラチンを腹腔内投与して作成した。今回EPA、DHA乳剤をシスプラチン投与24時間前に尾静脈から静注して発症予防効果を検討したが、EPA、DHAのいずれも有意な予防効果はみられなかった。投与量、投与期間を変えて検討したが同様な結果だった。このため、Thy1.1腎炎モデル、馬杉腎炎モデル、ピューロマイシンネフローゼモデルに関して脂肪酸乳剤の効果を検討した結果、ラット馬杉腎炎モデルにおいて尿蛋白減少効果が認められた。この結果を詳しく解析したところ、組織学的検討では有意な効果はみられておらず、おそらく馬杉腎炎の病態を考えると、病態の初期にみられる白血球の遊走を脂肪酸乳剤が抑制することによってもたらされる可能性が示唆された。脂肪酸乳剤の投与は体内の脂肪酸を変化させることが可能であり、経口投与よりも迅速な効果発現が期待できると考えられ、急性疾患への応用が可能であると考えられる。また脂肪酸は生体内に元々存在する物質であるため、安全性は高いと考えられる。さらにDrug delivery systemの観点から脂肪酸乳剤は、炎症巣に選択的に取り込まれ長時間留まると考えられており、有用性は高いと思われる。今回は当初の予定のモデルであるシスプラチン誘発急性腎不全モデルにおいては脂肪酸乳剤の効果を確認できなかったが、その他の腎炎モデルにおいて効果がみられており、本研究の結果は脂肪酸乳剤の今後の臨床応用への可能性を示唆するものと考えられる。
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