ネフロンの数は腎臓あたりおよそ100万個と言われてきたが、近年、出生時に既に2倍から5倍の差があり、ネフロン数が少ない状態で生まれてきた新生児(以後低ネフロン数出生児)は成人後の高血圧および腎障害の進展のリスクが極めて高いことが明らかとなってきた(N Eng J Med 2003)。新生児のネフロン数が少ない原因としては、母体の低栄養状態や糖尿病、胎盤機能不全などが知られているが、その分子基盤は不明である。 腎発生の過程では後腎間葉系細胞と呼ばれる未分化な細胞からネフロンのほとんど全ての部分(糸球体、近位尿細管、ヘンレループ、遠位尿細管)が分化する。そのため、この後腎間葉系細胞の中には腎の幹・前駆細胞が存在すると考えられている。後腎間葉系細胞はヒトでは生下時までに失われ、それと同時にネフロン形成が終了する。骨形成因子のひとつであるBMP-7を欠損すると腎ネフロン数が極端に少なくなることが報告されているが、同マウスでは極めて早い段階でネフロン形成が停止してしまうことから、BMP-7のネフロン形成における作用機序は明らかになっていない。後腎間葉系細胞がBMP-7を強く発現していることから、申請者は、「BMP-7が後腎間葉系細胞に存在する腎の幹・前駆細胞プールの維持に関わっている」という仮説を立てた。申請者はBMP-7をノックダウンすると、(1)後腎間葉系細胞の一部の細胞はアポトーシスに陥るため菲薄化し、(2)残りの細胞は未分化性を失い、過度に分化した少数のネフロンが形成されることを見いだした。さらにこの細胞をもちいたGeneChipを行い、その下流遺伝子を同定した。 この結果からBMP-7は幹・前駆細胞プールの維持)に関わっている可能性が高いと考えられる。
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