尿中FSP1の臨床的意義を検討するために、2009年に当科で腎生検を実施した患者の中でインフォームド・コンセントを取得しえた全例(120例)の尿中FSPI値を測定した。患者内訳は、微小変化群(MCD)16例、膜性腎症(MN)13例、IgA腎症(IgAN)32例、半月体形成性糸球体腎炎(CrGN)10例などである。尿検体には、治療開始前、腎生検実施日の早朝第1尿を用い、測定値はクレアチニン値で補正した。MCD患者とMN患者では、2例を除き尿中FSPlは検出されなかった。IgAN患者の24例に、CrGN患者の全例に尿中FSPlが検出された。CrGN患者の尿中FSPl値はIgAN患者に比して、有意に高値であった(27.1 vs 5.8μg/gCr)。また、IgAN患者の中で著明高値を示した2症例(34.6および59.1μg/gCr)には、いづれも30%以上の糸球体に半月体が観察された。尿中FSP1値は、糸球体腎炎の鑑別および活動性評価に有用な新しいバイオマーカーと考えられる。 また、ポドサイトにおけるFSP1の役割をin vivoで検討する目的で、遺伝子改変マウスを用いた実験を実施した。実験腎炎モデルについては、1) マウスで作製可能である、2) ポドサイトのアポトーシスが原因と考えられている、3) ポドサイト障害が糸球体硬化病変の出現に関連する、の3点を満たすことを条件として選択した結果、アドリアマイシン腎症を用いた。アドリアマイシン腎症は、BALB/cバックグラウンドでしか作製できないため、FSP1.K0マウスおよびFSP1.TGマウスを10回以上BALB/cにバッククロスした。アドリアマイシン10mg/kgを各群マウスに静脈内投与後8週間目で蛋白尿の出現頻度を検討した。蛋白尿の出現頻度はFSP1.K0マウスで有意に上昇していた。
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