先に我々は、人為的に腎臓臓器発生をする場を培養で提供することにより、ヒトの骨髄間葉系幹細胞(MSC)が分化し、腎臓の構造を形成し(PNAS 2005)、ヒトの尿(JASN 2006)、さらにはヒトのエリスロポエチン(EPO)(Transplantation 2008)を作ることを報告した。今回これまでのげっ歯類の研究成果を元にヒトへの臨床応用するための前段階として、慢性腎不全自然発症が多いネコでの実験を行った。ドナーとしてヒトサイズの腎臓を持つブタを用いた。ブタ腎臓原基は倫理的問題や低免疫原性など多くの利点を持つ。ブタの胎児腎臓原基またはネコMSCを注入した腎臓原器を、片腎を摘出したネコの大網に移植しシクロスポリンの単剤で腎臓発生を試みた。移植する前の胎生27-31日(長径約2mm)は3週間後に大網内で長径8-10mmまで発育し、病理学的には成熟した糸球体や尿細管を認め、さらに一部尿の産生を認めた。種特異的プライマーを用いたPCRにより、ネコMSCを注入していない後腎移植でも発育したものはネコEPOを産生していることが明らかとなった。この知見はマウス後腎組織をラット大網に移植する異種移植実験でも確認された。したがって移植腎臓原基は単なる足場としてでなく、腎臓構成細胞へと分化誘導させるnicheも提供していることを示しており、これまでの異種臓器移植とは異なり、腎臓再生の新しいストラテジーとなると考えられた。今後、新生した腎臓がホストの尿路系の接合が重点課題となる。
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