成体幹細胞輸注による細胞療法で障害臓器の再生を目指すというストラテジーは、腎不全が進行する前の3次元構築が保たれている時期には適応となるであろう。しかし透析患者のように進行した慢性腎不全ではすでに組織構築が著しく破壊されているため、単純な細胞の補足では改善が望めない。そこで、生体内の幹細胞にしかるべきニッチを与えることにより、特定の臓器に分化誘導するというストラテジーである。つまり成体幹細胞のソースとなるべき患者自身の生体環境(in vivo)を活用した機能組織の樹立の試みである。我々は、胎生組織を"足場"(ニッチ)として利用植し成体内で発生プログラムを作動させることにより腎機能を復元しようとする試みを検討してきた。ラットモデルにおいて、発生初期の幼弱後腎組織(=ニッチ組織)を大網内に移植すると、驚いたことに、骨髄からMSCが動員され移植後腎に集簇しそこで分化シグナルを受けてエリスロポエチン(EPO)産生細胞に分化することが明らかとなった。EPOのリコンビナントタンパク質は、広く腎性貧血に使用されているが高コストであり、またEPO発現ウイルスを用いた遺伝子治療も臨床応用には至っていない。我々が生体内で作成したEPO産生細胞は、腎性貧血を改善させたことから、組織再生の前段階である自己成熟細胞の誘導に、成体幹細胞のニッチ組織として胎生臓器が有効であることが示された。さらに薬剤誘導にてアポトーシスを惹起する遺伝子改変マウス(自殺マウス)の後腎組織をニッチとして移植することにより、EPO産生組織樹立後に異種部分を排除することも可能であることが示された。この胎生組織ニッチ法は腎性貧血の治療のみならず、組織の三次元構築がその機能発揮が必須な組織(膵臓など)に活用しうる、普遍的組織再生法に繋がることが強く期待される。
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