研究概要 |
[背景]小児ステロイド抵抗性ネフローゼ(SRNS)は、治療効果がなく進行性に腎不全に至る難病である。根治的治療には腎移植を要し、患者と家族の心身の負担は大きく、病因の解明が待たれている。欧州ではすでに数個の原因遺伝子が同定されている。一方アジア人の疾患遺伝子は、欧米の症例とは異なっており、多くは不明である。 [目的]家族性SRNSは少子化傾向により減少している。疾患遺伝子を明らかにするために、アジア諸国での国際協力体制を構築して、症例情報を集積し、疾患遺伝子を同定する。 [成果]3年計画の2年目である本年は、アジア諸国の連携研究者(飯島、Cheong,Hu)からの情報収集を継続し、病因解明のために必要な検体収集や共同データベースの構築を行った。倫理面については、本学倫理委員会承認プロトコール(ヒ-0805号)に準拠し、人権保護のために十分な配慮を行った。 (1)臨床情報と検体収集(塚口、飯島、Cheong,Hu):共同研究者とその関連病院を中心に、問診票や診療録調査を行い、新たな症例情報をデータベース化した。 (2)疾患遺伝子検索(塚口、飯島、Cheong,Hu):検体収集が終了した8症例(家族性6、孤発性2)についてSure Select Kit(50Mb)で全エクソームライブラリーを作成した。次世代シークエンサーHiseq2000を用いて、paired-end 75bp,Depth x30-50,total 6Gbの条件で変異を検索した。 先行研究の全ゲノム連鎖解析の結果、疾患遺伝子座は少なくとも3カ所あると推測される。原因遺伝子の異質性を考慮して、変異の探査を行っている。 [期待される結果]アジア人SRNSは家系構造が小さくかつ症例も少ないため、疾患遺伝子を突き止めることが困難であった。しかし本研究による国際協力と最新ゲノム技術の導入で、一気に原因同定に向けて加速したといえる。小児SRNS疾患遺伝子の情報は、より頻度の高い成人の進行性腎不全の病態解明にもヒントを与え、アジア諸国の健康福祉の向上に広く貢献する。また本研究成果を基に、難治性腎疾患の個別化医療、分子標的治療、再生医療など、先端医療開発への橋渡しを図りたい。
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