本年度も申請書に記載した「研究目的」および「研究実施計画」に基づき実験を行ったが、技術的な問題から公表するに足る結果を得ることができなかった。さらに検討を重ねて当初の目的を達成するべく努力をする一方で、並行して行っていた実験から次のような極めて興味深い知見が得られた。即ち、そもそも多発性嚢胞腎の発症には尿細管上皮細胞由来の嚢胞上皮細胞の異常増殖と、その嚢胞上皮細胞における嚢胞内へのイオンや水の積極的な分泌が必要であるが、この後者に関して主要な役割を果たしているのが嚢胞性線維症の原因遺伝子産物であるcystic fibrosis transmembrane conductance regulator protein (以下CFTR)と考えられている。そこで、我々のAQPllノックアウトマウスにおいても嚢胞形成にCFTRが関与していないかどうかを調べるため、抗CFTR抗体を用いた免疫組織染色を行った。すると、もともと正常なマウス腎の近位尿細管のS3と考えられる部位にはCFTRが発現しているが、AQPllノックアウトマウスの嚢胞上皮細胞においてもCFTRが豊富に発現していた。従って、AQPllノックアウトマウス腎の嚢胞形成においてもCFTRが深く関与していると推察される。Preliminaryなdataではあるが、AQPllノックアウトマウスの嚢胞腎発症機構を明らかにするにあたり、重要な示唆を与えてくれるものと考えられた。
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