本研究は重症の酸血症、成長障害、失明などを伴う難病である遺伝性近位尿細管性アシドーシスに対する有効な治療法を開発するために立案された。今年度はナトリウム重炭酸共輸送体(NBC1)の新規に同定された変異W516Xを遺伝子工学的手法を用いて組み込んだノックインマウスの樹立とその解析を行った。W516Xホモマウスは低体重・発育不良・貧血・脾腫・高尿素窒素血症ならびに著明な代謝性アシドーシスを呈し、未治療では生後20日前後で全例死亡した。またホモマウスではNBC1のmRNAおよび蛋白発現を認めず、変異mRNAの分解機転が働いていることが示された。一方、ヘテロマウスは野生型に比べごく軽度の代謝性アシドーシスを示したが、ほぼ野生型と同等の発育を示した。単離した近位尿細管を微小潅流し細胞内pH測定法によりNBC1活性を比較したところ、ヘテロマウスでは中程度の活性低下(野生型の約60%の活性に相当)を認め、ホモマウスでは著明な低下(野生型の約15%程度の活性)を認めた。Stop-flow法により測定した近位尿細管重炭酸再吸収量についてもほぼ同様であった。ホモマウスに対して重炭酸投与を行ったところ、アシドーシス・貧血・脾腫・高尿素窒素血症などの改善に伴い、著明な寿命延長が見られた。このようにして得られた生後30日以上生存したホモマウスでは角膜浮腫による角膜混濁を認めた。以上より、W516Xノックインマウスはヒトの近位尿細管性アシドーシスの表現型を再現する適切な動物モデルであることが示された。今後、PTC124およびアミノグリコシドなどの治療判定を行う予定である。
|