研究概要 |
本邦における末期腎不全に対する腹膜透析療法の更なる普及と長期安全性の確立のために、酸化ストレス軽減作用や抗アポトーシス効果を有する新規希少糖含有腹膜透析液を開発し、腹膜硬化モデルにおける希少糖含有腹膜透析液の有効性を検討した。 i)腹膜中皮細胞の初期培養の確立と酸化ストレスに対する抑制効果の検討 ペントバルビタール麻酔下の腹腔にコラゲナーゼを注入しラット腹膜中皮細胞を分離し、初代培養の後、HBME-1(抗腹膜中皮細胞表面抗原)を発現する細胞群を選択した。静止状態にしたサブコンフルエントの腹膜中皮細胞に83mMのD-グルコース、83mMの10%(8.3mM)を希少糖に置換した希少糖配合溶液(74.7mMD-グルコース+8.3mM希少糖)、5.6mMD-グルコース溶液の各3群間で、酸化ストレスの発生とNADPHオキシダーゼの膜型構成コンポーネント(p22phox,Nox-1,Nox-4)の遺伝子発現、カスパーゼ3の活性測定と細胞のTUNEL染色でアポトーシス誘導について検討した。各種希少糖のさまざまな濃度(1~20%)で検討したところ、2~10%D-プシコースに濃度依存性の有意な酸化ストレス抑制効果を認め、最大抑制反応は10%含有の溶液であった。 ii)ラット腹膜硬化モデル動物への希少糖含有透析液の効果の検討 上述のようなin vitroスクリーニングで最適化した希少糖配合腹膜透析液(74.7mMD-グルコース+8.3mMD-プシコース)をラット腹膜硬化モデル(in vivo)で検証した。ペントバルビタール麻酔下に腹腔内に腹膜炎惹起物質(0.1%chlorhexidine gluconate/15%ethanol)を連日14日間投与した肥厚性腹膜硬化症モデルを作成し、希少糖含有腹膜透析液の抗酸化ストレス作用について、通常濃度のD-グルコース含有透析液で比較検討を行った。結果として、このモデルでの腹膜線維化に対する抑制効果を認めることはできなかった。検証モデルを変更した希少糖透析液の更なる有効性の検討が必要であるが、先の大震災によって施設の一部が復旧できずに研究が遅延し、現状では有効な抑制効果を未だ確認できていない。
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