研究概要 |
アルツハイマー病(AD)におけるAB蓄積によるtauopathy誘発と神経細胞障害の機序を解明するために,ADモデル動物であるAB産生マウスTg2576とtau産生マウスTgTauP301Lを掛け合わせたdouble transgenic mouse(doubleTg)を用いてAB蓄積が神経細胞障害を起こす機序の検討を行った.8-23月齢のdouble Tg(n=21),TgTauP301L(n=20)で半脳はparaform固定して免疫組織を行い,半脳は不連続蔗糖勾配を作成し,lipid rafts分画を含む各分画を採取し,westen blottingで解析した.昨年度は20月齢の高齢double Tgで脳へのリン酸化tauの蓄積促進と,脳分画の中ではlipid rafts分画へのリン酸化tauおよびtauリン酸化酵素GSK3B蓄積亢進を認めた.本年度の検討では,double Tgの脳リン酸化tau蓄積は樹状突起に始まり,蛍光免疫ではリン酸化tau蓄積とlipid raftsマーカーのflotillinは共存することを示した.脳lipid rafts分画にはAB oligomerの蓄積を認め,それと共にグルタミン酸のNMDA受容体に関わるFynの著明な増加を認めた.NMDA受容体のsubunitのNR2A,NR2Bは増加し,リン酸化NMDA受容体2B(pTyr1472)の増加も認めた,AMPA受容体のsubunitであるGluR2の増加も認められた.ADではリン酸化tauが樹状突起に蓄積することが知られている.最近,tauはFynを樹状突起に運ぶ足場蛋白として働き,FynはNMDA受容体をリン酸化してグルタミン酸シグナルを増強することが示されている.また,Fynはtauのリン酸化酵素でもある.我々の検討からAB amyloidosisによって誘発されたtauopathyはlipid raftsに存在する信号伝達系のNMDA受容体やAMPA受容体に作用してグルタミン酸神経毒性を介したシナプス障害と神経細胞の減少を引き起こす可能性が考えられた.Lipid raftsはsecondary tauopathyによる神経細胞障害部位と考えられ,lipid rafts標的療法は神経毒性を阻止するための有効な治療法になりうると考えられた.
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